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声明 2023/12/27

大川原化工機事件国家賠償訴訟判決を契機に

経済安全保障上の規制の持つ人権侵害の危険性について警告する

 

                      経済安保法に異議ありキャンペーン・秘密保護法対策弁護団

 

1 大川原化工機事件捜査の問題点

本日12月27日、東京地裁において、大川原化工機事件の国家賠償訴訟判決が言い渡されました。この事件は軍事転用可能な装置を中国や韓国に不正に輸出したとして、外為法違反に問われたケースですが、第一回公判期日の直前に検察が起訴を取り消すという異例の展開となっていました。

大川原化工機の噴霧乾燥機について、経済産業省は当初立件することに否定的でしたが、判決では、公安警察による捜査の過程で、警視庁公安部が経済産業省の省令の解釈を立件方向で捻じ曲げていたこと、経済産業省を説得するために、専門家の供述調書として本人が話していない内容を記載されたものが作成されていたことなどが判明しています。さらに、本年6月の証人尋問では、捜査に当たった現職の警視庁の警部補が、「事件は捏造である」ことを認める証言をするにいたりました。さらに、この事件では、逮捕・勾留された技術者について7たび保釈却下されていたこと、ガンの発症が判明したのちも勾留が継続され、勾留の執行停止後に死亡に至るという痛ましい悲劇を生み出しています。

 

2 判決は公安捜査と検察捜査を断罪

27日の判決で東京地方裁判所の桃崎剛裁判長は、警視庁公安部が大川原化工機の製品を輸出規制の対象と判断したことについて、「製品を熟知している会社の幹部らの聴取結果に基づき製品の温度測定などをしていれば、規制の要件を満たさないことを明らかにできた。会社らに犯罪の疑いがあるとした判断は、根拠が欠けていた」と判断し、捜査そのものが違法なものであったとしました。
 逮捕された1人への取り調べについても、調書の修正を依頼されたのに、捜査員が修正したふりをして署名させたことを認定し、違法な捜査だとしました。
 さらに、検察捜査については、起訴の前に会社側の指摘について報告を受けていたことを挙げ、「必要な捜査を尽くすことなく起訴をした」として、起訴そのものが違法であったと判断しました。

そして、勾留中にがんが見つかり、亡くなった相嶋静夫さんの死について、「体調に異変があった際に直ちに医療機関に受診できず、不安定な立場で治療を余儀なくされた。家族は、夫であり父である相嶋さんとの最期を平穏に過ごすという機会を、捜査機関の違法行為によって奪われた」と指摘しました。

 

3 公安捜査暴走の背景には経済安保案件を立件して功を焦る欲があった

警察捜査が適正になされることを確保することは検察官と裁判官の役割です。ところが、今回の判決によって、公安警察の捜査の暴走について、検察官も裁判官も歯止めとなりえない実態が浮き彫りになりました。日本の刑事司法の負の側面が明らかになりました。何よりも、本件捜査が暴走した背景には、経済安保法の制定を急いだ官邸の意向を忖度し、経済安保関連事案を立件することで得点を稼ごうとする「捜査員の欲」があったと、捜査官自らが認めていることが重要です。

 

4 経済安保法の改正案の国会提案が準備されている

安全保障のベールに覆われた事件については、そもそもチェックが困難となりがちです。このような中、来年の通常国会には、経済安保法を改定する法案が提案されようとしています。

第1に経済安全保障上の秘密の漏洩については、最高2年の拘禁刑ですが、それを最高10年(特定秘密保護法並み)にまで重罰化しようとしています。政府は本年11月20日のセキュリティ・クリアランスに関する有識者会議で、情報漏えいの罰則を特定秘密保護法並みの水準とする方針を示しているからです。

そもそも、「経済安全保障」という概念が不明確で、政府が自由に解釈して秘密指定できます。政府公表資料において、その対象を宇宙・サイバー分野にまで拡大することさえ検討しています。「秘密」が無制限に拡大され歯止めがなくなる可能性があります。

第2に、政府職員と民間人について、「秘密」に接触できる者と接触できない者に分けるために、家族も含めて、身辺調査(セキュリティ・クリアランス=適性評価)を行う計画です。特定秘密保護法の適性評価と同様、活動歴、信用情報、精神疾患など高度なプライバシー情報まで取得し、しかも、本人だけでなく、その家族や同居人についても調査の対象となると考えられます。本人の同意が前提とはされていますが、調査を拒めば、結局、企業等が取り組む研究開発や情報保全の部署などからは外される可能性が高いと言わざるを得ません。

 

5 有識者会議は法改定の要否・公安捜査の監督措置について再検討を

大川原化工機事件のような悲劇が再発し、秘密のベールに覆われて、その弁護活動・取材報道なども制約されてしまう可能性があります。本日の判決を踏まえて、有識者会議は、法の必要性を見直し、歯止めとなる法運用の監督機関の設置など、公安捜査の暴走をチェックすることのできる措置を検討するべきです。

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