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2024 年5月10日

経済秘密保護法の成立に強く抗議し、同法と特定秘密保護法の廃止を求める声明

経済安保法に異議ありキャンペーン

秘密保護法対策弁護団

経済秘密保護法の成立に強く抗議し、同法と特定秘密保護法の廃止を求める声明
https://kojiskojis.hatenablog.com/entry/2024/05/12/011705

2024 年5月10日

 

経済秘密保護法の成立に強く抗議し、同法と特定秘密保護法の廃止を求める声明

 

経済安保法に異議ありキャンペーン

秘密保護法対策弁護団

 

1 はじめに

2月末に国会に提案された経済秘密保護法案=重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案は、私たちの反対の声にもかかわらず、4月8日に衆院本会議で可決され、本日参議院で可決成立した。

 自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などが賛成した。共産党、れいわ新選組、有志の会、社民党、沖縄の風が反対した。

立憲民主党は、法案を批判する質問・討論を行ったが、修正案が受け容れられたとして法案に賛成した。

 

2 私たちが、この法案の成立に反対した理由は、次のようにまとめられる。

(1)法案は、特定秘密保護法を改正手続きによらず拡大するものであること

2013年に制定された秘密保護法は、防衛、外交、テロ、スパイの4分野の秘密指定しか想定しておらず、経済安全保障に関連する情報を特定秘密とすることは全く議論されていない。ところが、法案は、経済安全保障に関連した情報の中には、秘密保護法上の特定秘密に相当する情報があるという前提に立ち、秘密保護法を「改正」しないまま、「秘密保護法の運用基準」の見直し=「閣議決定」だけで、秘密保護法を経済分野に大拡大しようとしている。

 このような立法は、立憲主義の破壊行為であるといわなければならない。

 

(2) 秘密指定に関する監督措置が不十分であること

私たちは、特定秘密保護法について、①政府の違法な行為を秘密指定してはならないと法定すること/② 公共の利害にかかわる情報を公表した市民やジャーナリストが刑事責任を問われない保障/③ 適正な秘密指定がなされているかを政府から独立して監督できる制度/④ 秘密指定された情報が期間の経過によって公開される制度を求めてきた。

しかし、経済秘密保護法案は、このような批判を踏まえた対応を一切行っていない。

さらに、政府原案では、衆参両院の情報監視審査会による監督や、国会への報告制度すら適用されず、特定秘密保護法の場合と比較しても、監督措置が脆弱であった。

この点は、立憲民主党の修正案を政府が部分的に受け容れ、国会報告制度が盛り込まれ、情報監視審査会の関与も実現される可能性がある。しかし、この法案修正は、上記に示した法案の根本的な問題点を解消したとは到底評価できない。

 

  1. 法案による秘密指定の範囲は限定されていない

秘密指定の対象となる情報は民間企業の保有する情報ではなく国の保有する情報だけと政府は説明している。しかし、国費で行われている研究で機微情報と認定されれば秘密指定を行うとしている。経済安全保障法自体が膨大な情報を政府に吸い上げる仕組みである。特定重要物質のサプライチェーンに関する情報、15分野の基幹インフラ企業の施設、設備、プログラム、ITシステムが国に集められたうえで秘密指定される仕組みであり、絞りがかけられているとは到底言えない。加えてAI技術、量子技術、宇宙航空技術、海洋技術開発などの先端技術分野は軍事技術開発として日米共同研究が企図されており、SCの設定が不可欠となっているもので、日米軍事同盟のシームレスな展開が目指されている隠れた狙いがある。

 

  1. コンフィデンシャル級の秘密指定は欧米では廃止されていて、法案は周回遅れのアナクロだ!

今回の経済秘密保護法案は重要経済安保関連情報であって漏洩によって著しい支障がある場合は特定秘密として扱い拘禁10年、支障がある場合には拘禁5年という二段階化し、秘密レベルを複層化する制度をとっている。

 ところが、日弁連の斎藤裕前副会長は、コンフィデンシャル級の秘密指定は英仏ではすでに廃止され、アメリカの情報保全監察局(ISOO)による2022年レポートは、大統領あての提言でコンフィデンシャル級の秘密指定の廃止を提言し、カナダにおいても廃止の方向であることを衆議院と参議院の二度の参考人公述のなかで明らかにした。法案の必要性の根幹にかかわる問題点が明らかになったにもかかわらず、問題を掘り下げることなく、法案成立させたことは、著しく不誠実な国会運営であったといわなければならない。

 

  1. 数十万人の民間技術者・大学研究者が徹底的に身辺調査されプライバシーを侵害される

特定秘密保護法の適性評価は主に公務員が対象であった。経済秘密保護法案では広範な民間人が対象となることが想定される。適性評価は各行政機関が実施するが、その調査は、内閣総理大臣が実施する。官民の技術者・研究者の、犯罪歴、薬物歴、健康、経済状態、飲酒の節度などの個人情報が調べられる。

衆院で、国民民主党がハニートラップの危険性に関して性的行動が調査事項とされていないのは問題ではないかと高市大臣を追及した。高市大臣は法案12条2項1号の「重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項」に該当し、調査できると明確に答弁した。ところが、この点を、参議院の内閣委員会で福島みずほ議員が追及すると、防衛省は、性的行動の調査は行わないが特定有害活動との関係に関する事項の場合は適性評価において考慮されうると答弁した。さらに、性的行動が調べられるなら、政治活動、市民運動、労働組合活動なども調べられるのではないかとの質問に対して、政府委員は、どのような事項について調査しているかも、敵につけ入る隙を与えるので答えられないと答弁した。この点は、2013年に特定秘密保護法が成立した後の運用基準では、「評価対象者の思想、信条及び信教並びに適法な政治活動、市民活動及び労働組合の活動について調査してはならない。」と定められていた。政府委員の頭からは、自らの定めたこの運用基準すら飛んでしまっていることが明らかだ。

適性評価の実施には、本人の同意を得るとされる。しかし、家族の同意は不要だ。仮に同意しなければ、研究開発の最前線から外され、人事考課・給与査定で不利益を受ける可能性は否定できない。そして、適性評価が適切におこなわれているか、独立の立場で監督する第三者機関は全くない。

 

3 戦争への道を開く経済秘密保護法の成立に強く抗議する

悪法を止めるための活動は、仮に制定を止められなくとも、反対運動が盛り上がることによって、政府による法の濫用に対する歯止めとなる。特定秘密保護法違反の罪で起訴されていないのは、特定秘密保護法の成立に多くの市民が反対の声を上げたからである。

5月5日公表の産経新聞による調査では、主要企業110社から調査回答によると、「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度創設に賛成の企業は3割に満たなかった。プライバシー侵害などの懸念が根強いことが示された。5月8日の東京新聞特報面は、福島国際研究教育機構(FREI)と、アメリカの核・原子力研究機関PNNLの協定締結の動きを取り上げ、法案が成立すれば、武器開発・核開発につながる先端技術の研究が秘密のベールで覆われる危険性を指摘した。このように、法案に対する疑問の声が、メディアにおいても、ようやく大きく取り上げられるようになってきた。このような動きを圧殺するかのように、法案の成立を急いだ政府・与党に強く抗議する。

この法案と経済安保をめぐる国際対立の激化の先には米軍の先兵として日本と中国との本物の戦争の悲劇が待っていることを覚悟しなければならない。そして、この法律の成立に手を貸した連合や立憲民主党には、来るべき戦争の悲劇へ道を開いた責任がある。

私たちは、成立した経済秘密保護法が真の悪法として猛威を振るうことのないよう、今後予定される運用基準の制定の過程についても、市民の立場で意見を発信しつつ継続して粘り強く監視を続けるだけでなく、政権交代の暁には今回成立した法と特定秘密保護法の両法について、廃止を目指して活動を続けていく。

声明 2023/12/27

大川原化工機事件国家賠償訴訟判決を契機に

経済安全保障上の規制の持つ人権侵害の危険性について警告する

 

                      経済安保法に異議ありキャンペーン・秘密保護法対策弁護団

 

1 大川原化工機事件捜査の問題点

本日12月27日、東京地裁において、大川原化工機事件の国家賠償訴訟判決が言い渡されました。この事件は軍事転用可能な装置を中国や韓国に不正に輸出したとして、外為法違反に問われたケースですが、第一回公判期日の直前に検察が起訴を取り消すという異例の展開となっていました。

大川原化工機の噴霧乾燥機について、経済産業省は当初立件することに否定的でしたが、判決では、公安警察による捜査の過程で、警視庁公安部が経済産業省の省令の解釈を立件方向で捻じ曲げていたこと、経済産業省を説得するために、専門家の供述調書として本人が話していない内容を記載されたものが作成されていたことなどが判明しています。さらに、本年6月の証人尋問では、捜査に当たった現職の警視庁の警部補が、「事件は捏造である」ことを認める証言をするにいたりました。さらに、この事件では、逮捕・勾留された技術者について7たび保釈却下されていたこと、ガンの発症が判明したのちも勾留が継続され、勾留の執行停止後に死亡に至るという痛ましい悲劇を生み出しています。

 

2 判決は公安捜査と検察捜査を断罪

27日の判決で東京地方裁判所の桃崎剛裁判長は、警視庁公安部が大川原化工機の製品を輸出規制の対象と判断したことについて、「製品を熟知している会社の幹部らの聴取結果に基づき製品の温度測定などをしていれば、規制の要件を満たさないことを明らかにできた。会社らに犯罪の疑いがあるとした判断は、根拠が欠けていた」と判断し、捜査そのものが違法なものであったとしました。
 逮捕された1人への取り調べについても、調書の修正を依頼されたのに、捜査員が修正したふりをして署名させたことを認定し、違法な捜査だとしました。
 さらに、検察捜査については、起訴の前に会社側の指摘について報告を受けていたことを挙げ、「必要な捜査を尽くすことなく起訴をした」として、起訴そのものが違法であったと判断しました。

そして、勾留中にがんが見つかり、亡くなった相嶋静夫さんの死について、「体調に異変があった際に直ちに医療機関に受診できず、不安定な立場で治療を余儀なくされた。家族は、夫であり父である相嶋さんとの最期を平穏に過ごすという機会を、捜査機関の違法行為によって奪われた」と指摘しました。

 

3 公安捜査暴走の背景には経済安保案件を立件して功を焦る欲があった

警察捜査が適正になされることを確保することは検察官と裁判官の役割です。ところが、今回の判決によって、公安警察の捜査の暴走について、検察官も裁判官も歯止めとなりえない実態が浮き彫りになりました。日本の刑事司法の負の側面が明らかになりました。何よりも、本件捜査が暴走した背景には、経済安保法の制定を急いだ官邸の意向を忖度し、経済安保関連事案を立件することで得点を稼ごうとする「捜査員の欲」があったと、捜査官自らが認めていることが重要です。

 

4 経済安保法の改正案の国会提案が準備されている

安全保障のベールに覆われた事件については、そもそもチェックが困難となりがちです。このような中、来年の通常国会には、経済安保法を改定する法案が提案されようとしています。

第1に経済安全保障上の秘密の漏洩については、最高2年の拘禁刑ですが、それを最高10年(特定秘密保護法並み)にまで重罰化しようとしています。政府は本年11月20日のセキュリティ・クリアランスに関する有識者会議で、情報漏えいの罰則を特定秘密保護法並みの水準とする方針を示しているからです。

そもそも、「経済安全保障」という概念が不明確で、政府が自由に解釈して秘密指定できます。政府公表資料において、その対象を宇宙・サイバー分野にまで拡大することさえ検討しています。「秘密」が無制限に拡大され歯止めがなくなる可能性があります。

第2に、政府職員と民間人について、「秘密」に接触できる者と接触できない者に分けるために、家族も含めて、身辺調査(セキュリティ・クリアランス=適性評価)を行う計画です。特定秘密保護法の適性評価と同様、活動歴、信用情報、精神疾患など高度なプライバシー情報まで取得し、しかも、本人だけでなく、その家族や同居人についても調査の対象となると考えられます。本人の同意が前提とはされていますが、調査を拒めば、結局、企業等が取り組む研究開発や情報保全の部署などからは外される可能性が高いと言わざるを得ません。

 

5 有識者会議は法改定の要否・公安捜査の監督措置について再検討を

大川原化工機事件のような悲劇が再発し、秘密のベールに覆われて、その弁護活動・取材報道なども制約されてしまう可能性があります。本日の判決を踏まえて、有識者会議は、法の必要性を見直し、歯止めとなる法運用の監督機関の設置など、公安捜査の暴走をチェックすることのできる措置を検討するべきです。

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